半導体産業新聞 連載・ニッポン電機産業2.0 第1回 「日本は知恵比べで負けた」

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ニッポン電機産業2.0_第1回

■実態は変わっていない

日本の電機産業は12年末以降の円安や株価上昇に伴い、足元の決算を見た限りは業績面で一服感がある。しかし、日本の電機メーカーが自ら事業構造を変えていくことで手にした結果ではない。今回の連載では、なぜ日本の電機産業が苦境に追い込まれたのかを振り返り、その分析をもとに日本の電機産業はどのように事業展開をすることで復活できるのかを探っていく。

さらに、日本の電機メーカーを追い込んだアップルやサムスン電子がどのような戦略をとったのかを分析し、今後グローバル企業はどのような「競争のルール」を新たに仕掛けてくるのかも考察していく。多くの方からは、日本の電機産業の復活は無理ではないかという声を聞く。しかし、エネルギーや自動車産業の産業構造が大きく変化している中で、日本の電機メーカーの復活の機会を手にすることができる可能性が高まっていることは明らかだ。
多くの方が日本の電機メーカーは、海外の競合メーカーに技術で追いつかれ、日本の技術を迅速に海外展開できず、事業が「ガラパゴス化」してしまい技術の競争優位を失っていったと思っているのではないだろうか。しかし、そうした話は結果に過ぎず、競合企業に負けた原因ではない。
日本の電機メーカーがアップルやサムスン電子などにスマートフォンや液晶テレビ事業といた最終製品、液晶パネルやDRAMといったデバイスで敗れ去っていった最大の要因はスティーブ・ジョブズやイ・ゴンヒといった経営者との経営力で負けたと考えている。経営力とは経営者が事業構造を見抜き、その中で成立している「競争のルール」をいかに「それる」ことで自社にとって有利に事業展開できる「競争のルール」を確立することができるか、また「競争のルール」の中でいかに競争優位を確立できたかの差だということができる。

■日本の負けパターン
日本の電機メーカーは海外の競合企業に対して基礎研究やデバイスの初期量産段階においては競争優位を確立している分野は少なくない。日本の電機メーカーのデバイス事業の「負けパターン」は量産化が進み、競争優位が資金調達力にシフトしていく時だ。デバイスの量産段階で歩留まりが向上する過程では製造装置にそのノウハウが取り込まれていく。
その結果、より大規模に設備投資を行えるデバイスメーカーが価格競争においても競争優位を確立できる。サムスンはデバイス事業のこうした「競争のルール」を十分に理解し、資金調達力を背景に日本の電機メーカーのデバイス事業を規模で圧倒してきた。こうした状況では、価格だけではなくデバイスの性能においても日本のデバイス事業は海外の競合メーカーに追いつかれていたというのがこれまでの歴史だ。不思議なことに、日本の経営者は何度もこうした過ちを繰り返している。

■キャプティブの罠
それではなぜ日本の電機メーカーのデバイス事業は同じような過ちを繰り返してきたのか。それは、日本の電機メーカーは自社内の最終製品事業とデバイス事業を切りわけて考えることができなかったからだと考えている。筆者はこれを「キャプティブの罠」と呼んでいる。デバイス事業の生産計画を考える際、自社の最終製品の販売規模で設備投資計画を考えてしまうからだ。自社で使用する以上の数量のデバイスを生産するということは余ったデバイスは外販をしなければならない。
本来はデバイスの品質を確保しながら量産することで価格の競争優位を確立する必要がある。自社の最終製品の規模がボトルネックになってしまい、積極的に規模を追うことができなかった。これが「キャプティブの罠」だ。かつて日本の電機メーカーの主力デバイス事業であったDRAMが代表的な例だ。
自社内に最終製品の売り先が最初からなかった東芝のNANDフラッシュメモリーはそうした「キャプティブの罠」に陥ることなく現在まで事業を拡大できたといえる。サムスンは日本の電機メーカーの「キャプティブの罠」に陥るという敵失でデバイス事業を拡大できてきたともいえる。
しかし、そのサムスンもスマートフォンや液晶テレビをはじめ自社の最終製品の規模が大きくなることで、デバイス事業が最終製品の影響を受けるようになっている。自社の最終製品による購入比率が高い有機ELやNANDフラッシュがその典型例といえる。サムスンのデバイス事業も「キャプティブの罠」に陥っており、デバイス事業の競争優位は落ちていっているといえる。
(次号に続く)
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筆者プロフィール
泉田 良輔(いずみだ りょうすけ) 日本生命保険相互会社を経て、フィデリティ投信調査部でアナリストとして、エレクトロニクスや機械セクターなどを担当。13年にベンチャーやスタートアップ企業への経営支援、投資を行うGFリサーチ合同会社を設立する傍ら、個人投資家向け投資アイデアサイト「Longine(ロンジン)」にアナリスト兼編集委員長として参画