半導体産業新聞 連載・ニッポン電機産業2.0 第6回 「インフラ事業輸出の必要条件」

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ニッポン電機産業2.0_第6回

前回は経営におけるインテリジェンスの重要性について解説したが、今回は日本の電機メーカーの多くが重点事業に掲げるインフラ事業の展望、そして課題について解説する。

■発想の転換
安倍政権の次期成長戦略にこれまでのようにインフラを海外に輸出するという政策が積極的に盛り込まれるかどうかはわからない。しかし、日本の電機・重工業メーカーがインフラを海外に輸出するためには、各社の事業の在り方を大きく変える必要があると考えている。理由は、インフラ事業を取り巻く産業構造が変化していることと、電力や鉄道などのインフラを必要とする国に資金調達力がないことによる。
今後、世界のインフラ産業で勝ち進むためには、ハードウエア中心の「社会インフラ」を販売するという考え方では勝機はない。インフラ事業を海外で展開するためには、数十年という長期間に渡り、ハードウエアやプロジェクト資金調達、エネルギー調達、運用、メンテナンスまでの領域をカバーした「社会システム」を扱うという発想の転換が必要である。
日本の電機メーカーは、半導体や液晶パネル、太陽光パネル、薄型テレビ、携帯電話など多くのデバイスや最終製品の競争において世界で負け続けてきた。日本の電機メーカーはインフラ事業であれば世界で競えると声高に言ってはいるが、世界で競える事業が自社の中にインフラ事業しか残されていないとも言えなくはない。
一方、世界のインフラ産業は資金調達力のある企業が競合企業を買収することで再編が進んだ。インフラ事業は研究開発を起点としアフターメンテナンスまでを含む垂直統合型産業であり、各国や各地域の規制もあるので買収することが各プレーヤーの成長の近道であったからである。結果、インフラ産業では、事業規模が大きく財務内容が強固である企業が競争優位を確立した。
こうした世界のインフラ産業の潮流の中、日本の電機メーカーはどうであったか。最近でこそ、東芝がウェスティングハウス、ランディス・ギアを買収し、三菱重工業と日立製作所が火力発電事業を統合するなど、目立った動きがようやく出始めている。東芝のような電力インフラの垂直統合化と国際標準をリードしていこうという動きは評価されるべきものであるし、三菱重工業や日立製作所の規模を追求した動きも自然な流れだ。

■事業環境の劇的な変化
しかし、インフラ事業を取り巻く環境は刻々と変化している。まず、新規のインフラを必要とする国や更新を必要とする地域などが資金を調達できないというケースは多い。電機メーカーはプロジェクトを始める前に資金調達の役割の一端を担わされることもある。BOT(Build-Operate-Transfer、建設―運営―譲渡)と呼ばれるプラント受注形態もその一つである。
BOTでは、プラントメーカーが出資者として建設や運営に携わり、時には別の投資家を集めることも求められる。この受注形態であれば、プロジェクトから完全に手が離れるのは建設をはじめてから数年先ということがある。プラントメーカーに期待される機能が資金調達にまで拡大し、プロジェクトで取るリスクがより長期間にわたるようになっている。
プラントメーカーに期待されるのは建設や資金調達だけではない。例えば、原子力発電であれば、核燃料の調達や使用済み核燃料の廃棄まで求められることもある。こうした世界の顧客の要求に日本の電機・重工業メーカーが十分に応えるというのは難しい。また、今後、米国がシェールガスのような天然ガスを輸出する際、安定的にエネルギーを供給する条件に加えて米国企業の高効率ガスタービンを使用することを条件として付け加えるような状況になれば日本企業は競争の土俵にすら上がらせてもらえない。日本の技術力やものづくりの精度を披露する機会すら与えられないのである。このようにインフラ事業を取り巻く環境が大きく変化しているのである。

■競合に比べ事業領域が限定
日本では電力会社や鉄道会社が資金調達や運営を行い、研究開発や設計の機能すら持ち合わせていた。一方、「フルターンキー(Full Turn Key)」という言葉があるように、海外の電力会社や鉄道会社はオペレーションに経営資源を集中させてきた。結果、日本の電機・重工業メーカーは海外の競合企業と比較すると事業領域が限定されていた。日本企業がインフラ事業を海外に輸出するためには、こうした事業領域を拡大することと事業環境を取り巻く変化を乗り越えなくてはならない。
一度、世界のインフラ事業で競うことを決意したなら、企業財務において様々な準備を求められる。ひとつは、プロジェクトに出資をする原資や外部から借入資金を調達するなどの資金調達力の強化である。より多くのプロジェクトに参画するためには、手元資金や自己資本の「絶対額」が競合企業よりも大きい必要がある。また、インフラを扱うということは、一時的にプロジェクトが自らのバランスシートに乗ることもあるし、事業拡大のために競合企業を買収することも必要となる。結果として、バランスシートは負債が大きくなり、悪化する傾向となる。日本の電機メーカーはインフラ事業を積極的に展開しても、技術力だけでは競争優位を確立できない。

筆者プロフィール
泉田 良輔(いずみだ りょうすけ) 日本生命保険相互会社を経て、フィデリティ投信調査部でアナリストとして、エレクトロニクスや機械セクターなどを担当。13年にベンチャーやスタートアップ企業への経営支援、投資を行うGFリサーチ合同会社を設立する傍ら、個人投資家向け投資アイデアサイト「Longine(ロンジン)」にアナリスト兼編集委員長として参画