半導体産業新聞 連載・ニッポン電機産業2.0 第7回 「ハード、ソフト付加価値変動」

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ニッポン電機産業2.0_第7回

最近の民生エレクトロニクス産業はハードウエアとコンテンツの両面で動きが激しい。今後、このような動きが加速してくると考えている。今回は、最近の具体的な事例を紹介しながら、今後、民生エレクトロニクス産業を取り巻く事業環境がどのように変化していくのかを見ていく。

■ハード重視の結果
拙著「日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか」(日本経済新聞出版社)では、今後の電機産業ではハードウエアがより重要になるであろうと説いた。OSも含めてハードウエアの使い勝手がネットワーク上にあるコンテンツの評価までも決定してしまうためである。マイクロソフト(MS)がノキアの携帯電話事業の買収を決めたことはハードウエアを重視した結果だ。
MSはPCのOSでは市場を独占できる状況が続いたが、スマートフォンのOSではグーグルのアンドロイドやアップルのiOSに対してほぼ影響力がなかった。MSのOSを自ら設計したハードウエアに最適化させることで、例えばメモリーの搭載容量を最小化し、消費電力や機能性に優れたユーザーインターフェイスを持つ「軽い」ハードウエアを設計できるかどうかが重要となる。MSがモバイル市場で影響力を取り戻すためには、ネットワークを介してモバイル端末とPCとの連動性を強化し、将来的にはコンテンツ・プラットフォームの活用も重要となる。
MSで、もう一つ注目するべき点はゲーム専用機Xboxを抱えていることだ。次世代機Xbox oneではハードウエアからネットワークまでシステム全体を垂直統合化しており、チップとOSも内部デザインの比重が高まっている。
モバイル端末機市場での自前OSとハードウエアの組み合わせには目新しさはないが、ゲーム専用機からスマートフォンへ事業領域の展開はグーグルやアップル、サムスンなどの競合企業が持ち合わせていない戦略だ。ソニーはPlayStationをはじめとしたゲーム専用機とスマートフォンの両方を供給しているが、その掛け合わせはうまくいっているとは言い難い。任天堂は独自ハードウエアにこだわっているために、ハードウエアのスペックが汎用化したスマートフォンを活用するという発想はゼロに近い。マイクロソフトのノキアの携帯電話事業買収は成長余地のあるモバイル市場で残り少なくなった勝機を生かすための決断だったといえる。世界で影響を持つ独自OSを持っていない日本の電機メーカーには選択することのできない戦略でもある。

■付加価値領域がシフト
拙著ではハードウエアの技術変化が限界的になることで、ネットワークを活用した領域、例えばコンテンツ・プラットフォームや音声認識を活用したユーザーインターフェイスなどに競争領域がシフトしていることや、そうした領域に競争優位を持たないサムスンも次の打ち手がないということを指摘した。
また、ソニーの次の戦略として、映画や音楽などのコンテンツ事業を積極的に展開する施策を紹介した。拙著出版後、米国のヘッジファンドがソニーに対しソニーのコンテンツ事業が過小評価されている点を指摘した上で、コンテンツ事業を米国で上場させるべきだと提案した。これは海外でコンテンツ価値の評価が上がっているトレンドの一端だと考えている。一度株式を上場させれば、外部がソニーのコンテンツ会社を買収する選択肢は増える。現状のようにソニーが100%保有している場合であれば、ソニーのトップマネジメントが合意しなければ買収することはできない。
しかし、ソニーのコンテンツ事業が上場していれば、事業買収に興味がある主体が時価よりも高い価格を提示することで経営陣や既存株主に提案することも可能だからだ。仮にソニーが時価よりもはるかに高い価格で買収提案を受けた場合、ソニーのマネジメントはマジョリティを確保していたとしても合理的な説明をしなければならない。加えて、十分な説明をしないで提案を退けた場合には、ソニーのマネジメントはソニー株主からの訴訟リスクすらある。
コンテンツ再評価の別の例として、ソフトバンクがビベンディに対してユニバーサル・ミュージックの買収案を提示したとの報道がある。iPhoneで市場シェアを獲得していったソフトバンクがコンテンツに興味を示していることは興味深い。こうした動きはスマートフォンをはじめとした高速無線ネットワークに接続可能な端末とその普及が進んだこと、また技術変化によるハードウエアの差別化が難しくなることで将来の顧客の囲い込みのきっかけがコンテンツになると考える企業が出てきたことだと読み解ける。

■残された選択肢は
今後の民生エレクトロニクス産業で少なくとも生き残るためには、ハードウエアのユーザーインターフェイスで特徴を出すだけでなく、ネットワークの先でも工夫が求められる。PCのOSの覇者マイクロソフトさえも参入してきたスマートフォン市場では、今後さらに競争は激化する。日本の電機メーカーにとっては、究極的には、任天堂のように独自ハードウエアでスマートフォンとは異なる新しい市場を生み出すか、普及したスマートフォンのプラットフォーム上でコンテンツを供給する選択肢しか残されていない。

筆者プロフィール
泉田 良輔(いずみだ りょうすけ) 日本生命保険相互会社を経て、フィデリティ投信調査部でアナリストとして、エレクトロニクスや機械セクターなどを担当。13年にベンチャーやスタートアップ企業への経営支援、投資を行うGFリサーチ合同会社を設立する傍ら、個人投資家向け投資アイディアサイト「Longine(ロンジン)」にアナリスト兼編集委員長として参画