半導体産業新聞 連載・ニッポン電機産業2.0 第8回 「TEL・AMAT経営統合の意味するところ」

新聞記事のPDFについては以下のリンクをご参照ください。

ニッポン電機産業2.0_第8回

日本のデバイス・部品メーカー、製造装置メーカーは過去の「勝ち馬」であった日本の電機メーカーとの取り引きが大きかったがリスクとなった。今回は東京エレクトロン(TEL)とアプライド・マテリアルズ(AMAT)との経営統合をケースに日本のデバイス・その関連企業が今後どうすれば成長機会を見出し、生き残れるかを考える。

■今回のポイント
9月24日にはTELがAMATとの経営統合を発表した。日本最大の製造装置メーカーは米国企業との統合で生き残りの意思決定をしたことになる。TELは世界でのコーター・デベロッパー、エッチャー市場などでは大きなシェアを持つ企業である。なぜAMATとの経営統合を選択したのだろうか。今回のポイントは交渉力、収益性、インテリジェンスがカギとなったとみている。
TELは日本の半導体メーカーが顧客として残る一方、売上の結構な割合をサムスン電子、TSMC、インテルといった一部の顧客が占めている。下図からは、2010/11年度において、サムスン電子1社で売り上げのそれぞれ12%、15%を占め、12年度はTSMCとインテルの2社で売り上げの30%近くを占めていたことが分かる。
大手半導体メーカー3社に対して、製造装置を納めるメーカーの数がそれ以上であれば、交渉力は顧客側にシフトする。半導体メーカーごとに関係の深い製造装置メーカーは存在するが、製造装置メーカーの数が多ければ、値下げを武器に市場シェアを獲得しようとする企業はいる。
また、12年度の大日本スクリーン製造の業績から推察すると、洗浄装置で圧倒的な市場シェアを持っていても、顧客の投資スタンスが弱くなると交渉力を生かしきれない場面もあることが分かる。半導体メーカーでも事情は同じだ。NANDフラッシュメモリー市場は東芝・サンディスク連合とサムスン電子で市場シェアの80%程度を抑えているとみられるが、東芝のNANDフラッシュの収益性は大手顧客との交渉力差により押さえつけられているとみている。顧客先での大きなシェアがリスクとなる状況だ。
今回の経営統合では、両社の統合により合算した市場シェアが拡大するだけでは半導体メーカーから本当の意味で交渉力を獲得することにはならない。半導体メーカーに対してプロセス開発での主導権を握れるくらいのポジションになるくらいの施策が必要だ。

■収益性に決定的な差
AMATにありTELにない要素はなんであろうか。それは収益性である。下図は過去5年の両社の粗利益率と株主資本の推移を表したものである。連載の第2回で利益を起点としたダイナミックスを紹介した。その中で株主(自己)資本が資金調達力につながり、設備投資や研究開発、M&Aの競争優位を確立するプロセスを解説した。
TELはAMATに対して売り上げが劣るため、将来的の事業機会を有利に展開するためには収益性の改善が必要であった。粗利益率を改善するためには、顧客への交渉力や事業規模、製品ミックス、生産拠点の稼働率などがカギとなる。収益性を改善するために経営陣がこれら項目に関しての対応策がなければ、別の選択肢を検討しなければならない。
また、半導体製造プロセスの変化やウエハーの大口径化は追加での研究開発や設備投資を必要とする要因となる。TEL内部で収益性を改善することのできる時間軸と外部環境の変化により要求される追加投資や費用を比較することで最適解を選択したのがTEL経営陣の意思決定の背景ともいえる。

■ABBのような成功例も
TELは日本企業の中では極めてインテリジェンス機能が発達した組織である。これはTELの生い立ちを知れば理解しやすい。TELの前身である東京エレクトロン研究所は昭和38年に「VTR、カーラジオの輸出および電子機器関係の輸入業務」を目的として設立されている。つまり商社であり、事業機会を見出すために情報ネットワークをグローバルに張り巡らし、顧客の動向や次なる技術トレンドを理解する必要があった。
こうしたDNAを持つTELが統合相手企業に日本企業ではなく、世界シェア1位のAMATを選択したことはインテリジェンス機能の役割が大きいと考えている。
異業種ではあるが、過去には産業エレクトロニクス大手のABBのようにスイスとスウェーデンの国境をまたいだ合弁企業もグローバル市場で成功した例として挙げることができる。今回の経営統合は日本企業でABBのようなロールモデルを模索できるかの例となりうるため注目している。
経営統合発表後の9月24日のAMATの株価は対前日比9%上昇した。これは統合後の費用削減案や顧客への交渉力向上を好感した買いとも考えられるが、海外メディアがTELに対して「Acquire」や「Takeover」という言葉を使用していることから、AMATの株価が上昇したことには違和感を覚える。
なぜならば、株式市場では買収側の企業は買収を発表すれば株価が下がり、被買収企業の株価が上がることが多いからである。これは買収側が被買収企業にプレミアムを支払って買収が行われるためである(そうでなければ被買収企業の株主が買収に応じてくれない可能性があるため)。
しかし、今回のAMATの株価の反応を見る限りでは、AMATがTELを安く取り込めたという評価が含まれていたのではないだろうか。今後も、今回のTELのようなケースが出てくると考えられるが、統合比率については外国企業に積極的にチャレンジしてほしい。

筆者プロフィール
泉田 良輔(いずみだ りょうすけ) 日本生命保険相互会社を経て、フィデリティ投信調査部でアナリストとして、エレクトロニクスや機械セクターなどを担当。13年にベンチャーやスタートアップ企業への経営支援、投資を行うGFリサーチ合同会社を設立する傍ら、個人投資家向け投資アイディアサイト「Longine(ロンジン)」にアナリスト兼編集委員長として参画