半導体産業新聞 連載・ニッポン電機産業2.0 第10回 「電機・自動車産業の『次の20年』を占う」

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ニッポン電機産業2.0_第10回

過去9回に渡り、日本の電機産業がなぜ海外の競合企業に敗れたのか、世界の競争のルールとは何か、またどうすれば勝てるかを論じてきた。本連載の最終回では、日本の電機産業および自動車産業を取り巻く環境がどのように変わっていくかを大胆に予想する。テクノロジー分野のアナリスト経験からいうと、技術に関する長期予測を正確に言いきることは難しい。しかし、多くのシナリオを持ち、そのシナリオにもとづいた経営戦略を事前に準備することは非常に重要だ。次の20年を占う意味で重要なキーワードは「エネルギー」「ハードウェア」「ネットワーク」である。

■米仏による構造変化

東芝は原子力発電事業において、07年にはカザフスタンのウラン鉱山プロジェクトに参画、2010年には米国ユーゼック社への出資、12年にはカナダのゴビエックス社からウラン権益を確保してきた。こうした動きは原発プラント受注のためには燃料の調達と確保が重要だという考えだ。これはエネルギー源を調達できていればプラント受注がかなり有利になることを意味する。

原子力発電に限らず、火力発電でも事情は同じだ。東芝は13年9月に米国産天然ガスの液化能力を確保したと発表。電機メーカーが天然ガスの調達を行うというこれまでにない動きだ。燃料を調達できれば、発電に必要な設備の受注ができるという計算があるのだろう。グローバルな発電インフラ事業において、こうした競争のルールがあることで日本の発電プラントメーカーに勝機はあるだろうか。資源に乏しい日本が、発電に必要なエネルギー調達を担保することは難しい。東芝も原子力発電ではウラン調達を可能にする仕組みを作ったが、東日本大震災の影響を予測することは難しかっただろう。

欧州でもドイツは発電会社が原子力発電事業から撤退している。英国政府もウラン濃縮会社ウレンコの売却を決定している。日本の原発メーカーが海外で原発事業を推進するのであれば、対象となる市場は核燃料サイクルの安全性を確保でき、売電で採算のとれる電力需要の大きな国(主には新興国)という難しいビジネスになる。

また、日本はシェールガスを含む天然ガスを権益こそ確保することができるが、外国に天然ガス供給を担保して発電インフラを輸出するというのは難しい。日本に豊富にある地熱や水力エネルギーは輸出することができない。

このように日本の発電インフラ事業はエネルギー調達において競争力がないことから海外で競争優位を確立することは極めて難しい。次の20年は、安価なシェールガスを手にした米国と原子力発電で核燃料サイクルを確立しているフランスによる、エネルギー供給を起点とした産業構造変化の可能性が大きいとみている。

■エンジンを取り除く

エネルギー情勢が変化することで、最大の影響を受けるのは自動車産業である。これまで自動車はガソリンをエネルギー源とし、エンジンの燃費効率でハードウェア性能を競ってきた。日本やドイツの自動車メーカーは精度の高い切削加工を可能にする工作機械メーカーが完成車の競争優位を確立してきたといえる。

一方で、米国の自動車メーカーは燃費効率の領域で圧倒的な競争優位を確立できなかった。米国が自動車の競争優位を確保するにはどうすればよいか。競争のルールを変えるには、燃費効率を決定づけていたエンジンを自動車から取り除けばよいし、それに代わるものを提案できればよい。

それが電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)である。EVは電気、FCVは水素を安価に調達・分配や流通をすることができるかがカギとなる。この点では、米国はシェールガスが産出したことにより、まずは安価な電力と豊富な水素エネルギーを確保できたといえる。

EVは売れていないが、EVのコンセプトを見直すことで新たな市場を生み出すことができる。現状、EVの人気がない背景は、価格と航続距離の問題が大きい。ガソリン車に比べて、実際に使用された時間が短いことも低評価の一因だ。既存のガソリン車の機能を単に置き換えるのであれば消費者が積極的に買い替えるインセンティブは乏しい。

EVを何のために普及させるかを考える必要がある。それは移動手段としてエネルギー効率を高めることと、より安全な乗り物へと発展させるためである。スマートシティーはエネルギー効率を最大限活用するコンセプトであり、EVはそれを実現するためのハードウェアである。EVがネットワークに接続されれば、自動車に搭載しなければならない機能や部品も削減することが可能である。ネットワーク側から制御や操作も可能になるからである。

結果、目的地への最も効率的な移動が可能となり、自動運転も実現する可能性もある。こうした環境で現在の自動車メーカーは自動車メーカーでいられるだろうか。また、半導体メーカーにもより多くのセンサーが要求されるだろうし、ネットワークでさらに多くの情報処理を求められることにもなる。日本の製造業はこうした産業構造に直面した時にどのように対処するかを考えておかなければならない。

(この稿終わり)

 

筆者プロフィール

泉田 良輔(いずみだ りょうすけ) 日本生命保険相互会社を経て、フィデリティ投信調査部でアナリストとして、エレクトロニクスや機械セクターなどを担当。13年にベンチャーやスタートアップ企業への経営支援、投資を行うGFリサーチ合同会社を設立する傍ら、個人投資家向け投資アイディアサイト「Longine(ロンジン)」にアナリスト兼編集委員長として参画